TCのカム機構、その問題点と変遷について

■ 新型カムは何が違うのか?
06Dynaを含む07以降のTC96と、それ以前のTCのカム周りの構造は何がどう違うのだろうか。
主な違いを表にしてみた。

項目 99-06のTC 06Dyna
07以降のTC96
カム駆動方式 チェーン駆動 チェーン駆動
タイミングチェーンの種類 サイレントチェーン ローラーチェーン
チェーンテンショナー バネ 油圧/ナイロン製パッド
カムシャフトの支持 (F)ボールベアリング
(R)ローラーベアリング
サポートプレート
(ベアリング無し)
オイルポンプ 流量23%向上

新旧でカム周りがずいぶんと違っている。なぜだろうか。

99-06年のTC88はどんな問題を抱えていたのだろうか。
以下に99-06TCの問題点と対応方法を挙げてみた。

■ カムボルトとスプロケットの問題と対応
1999年 リアカム・ボルトおよびリアカムのドライブスプロケット破損が問題化
→ メーカーが耐久性の高いボルトに交換、スプロケットの仕様変更で対応。

■ アウターベアリングの問題と対応
2000年 リアカムのサポートプレートのボールベアリングの破損が問題化
→ メーカーがリア側をローラーベアリングに交換して対応。

■ インナーベアリングの問題と対応
カム内側のベアリング(INA製)に耐久性疑惑あり。
→ ユーザーは耐久性の高いベアリング(Timken/Torrington製)に交換して対応。
<参考画像>
http://www.v-twinforum.com/forums/twin-cam-engine-mods/95247-inner-cam-bearings-whats-difference.html

■ サイレントチェーンの問題
TCでは2本のカムがチェーンでつながれていてリア側がフロントのカムを駆動している。TCではサイレントチェーンという機構が採用された。サイレント・チェーンはスムーズかつ静かに回るというメリットがある反面、経年してチェーンが伸びやすい。そのため、高回転でバルブ動作のタイミングに狂いが出やすいというデメリットがある。これに対して多くのユーザーがローラーチェーンに変更することで対応した。ローラーチェーンは軽く耐久性があり、高回転でも精度が落ちにくい。

■ テンショナーの問題
高回転時にバルブをすばやく正確に動かすためにはバブルスプリングの強度を上げる必要がある。スプリングの力はバルブに伝えられると同時にロッカー、プッシュロッド、カム、カムチェーンを伝い、カムチェーンテンショナーに負担をかける。高回転時にテンショナーがこの力に負けてチェーンのテンションをキープできなくなりカムチェーンがばたつくことが問題となった。バルブスプリングを増強するとバルブタイミングに最大4度の誤差がでると言われた。

■ テンショナーパッドの問題
また、サイレントチェーンはその形状のためテンショナーのパッドを深く削る。このため、規定のメンテスケジュールを大きく前倒しにしてパッド交換が必要となるケースが多かった。削られたパッドの破片がオイルに乗ってエンジン全体を損傷したり、目詰まりを起こすこともあった。これに対してチェーンの表面を磨くなどして対応するユーザーもいたが効果は一時的なものだった。

■ クランクシャフトが曲がる!?
あまり知られていないツインカムエンジンの構造上の問題として、クランクシャフトの軸のゆがみ(ぶれ)がある。エンジンに負担をかけ続けるとクランクシャフトがゆがんで軸が中心からずれてくる。いったん歪みが発生すると、さまざまな異音、ブリーザーからオイル吐出が増えたりする。最終的にはスターター、オイルポンプ、カム、カムプレートなどに影響が及ぶ。何かが裂けたり壊れたりするとピストンやシリンダーにも損傷が及ぶ。保証期間内ならエンジンを交換してくれるかもしれない。しかし新しいエンジンとて構造は壊れたエンジンと全く同じ。この問題はどのTCエンジンにも潜んでいる構造上の問題と言われている。”harley crankshaft runout” や “harley pinion shaft runout” で検索すると本国のユーザーたちはかなり真剣にこの問題を追いかけていることがわかる。

<参考動画>

// ————————————————

いろんな問題を抱えていたようだが、メーカーは06dynaの形で一挙に解決策を示したようだ。サイレントチェーンはローラーチェーンに変更。バネ式のテンショナーは油圧に変わった。パッド材もナイロンとなった。カムプレートからベアリングが消えた。かわりにプレートの金属穴の表面にオイルを張り、そこにシャフトを浮かせて支えることになった。サポートプレートは99年から今日に至るまで4度以上仕様が変更され、現在の形となった。

<参考画像: カム比較>
http://www.hotbikeweb.com/tech/0809_hbkp_building_a_stout_twin_cam_crank/photo_09.html
左が07ローラーチェーン、右が99サイレントチェーン

<参考画像: サポートプレート比較>
http://www.hotbikeweb.com/tech/0612_hbkp_andrews_harley_cam_conversion_kit/photo_03.html
左が00(ベアリング支持)、右が新型(ベアリング無し)

チェーンの伸びやテンショナーのオーバーロードによるバルブタイミングのズレをなくすためにはカムをギヤ駆動にするのがベストだろう。しかし、新型はチェーン駆動のまま。これは、クランクシャフトのぶれの問題が未解決のままだとすれば納得できる。もしクランクシャフトの軸ぶれが発生したら、ギヤカムは噛み合わせが悪くなってしまう。そのために新しいモデルでもチェーンのままにしたのではないか。

これらのことを踏まえると、自分のような素人カスタムによるカムギア化は避けたほうが絶対に無難だ。ということで、カムを交換するならローラーチェーン型でいこうと思う。

次回は「ジョーミントン氏のカム選び」です。

「TCのカム機構、その問題点と変遷について」への5件のフィードバック

  1. Unknown
    クランクシャフトの話は経験値の多いショップから聞いたことがありますオイルポンプは必要ないなら変えたくないそうですね。カムギアもバックラッシュの範囲を超えてブレたら一撃なのかな・・・

  2. Unknown
    ほんと、どうなんでしょうね。自分のバイクも中開けてどれだけブレてるのか一度見てみたい気分です。。

  3. カムギヤ化
    45DgreeのHPを見るといいことばかり書いてありますが、逆回転用のカム、バックラッシュ、
    メカノイズなど考えたらちょっと怖いです。
    自分のは08年ですので、テンショナーも油圧で、材質も変わったようなので、大丈夫なのかな・・・・

  4. 注意が必要ですね
    HD関連の掲示板見てると、何人かのユーザーは実際にギアドライブカムの製造メーカーに電話して、軸がどのぐらい曲がっていても使えるのかを聞いたようです。その書き込みの内容によると、アンドリュース社はある人には規定の計測方法で.002インチまでOK、別の人には.004インチまでOKだと言ったそうです。一方、HDは当初.003インチまでとされていた軸の歪みの許容範囲を数年前に.012インチに変更しています。この変更で許容範囲が広がったことで、HD関連の掲示板コミュニティーではユーザーの疑念が膨らんでしまったようです。カムのギア化に関しては、軸の歪みをHD基準で見てOKでも、ギアドライブカムのメーカーの基準でNGとなる可能性があるので注意が必要だと言えますね。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です